公衆衛生は、地域住民と専門職が力を合わせて社会の共有財産である健康と生命・生活・人生を衛(まもる)実践科学です。この領域の看護職は、変化し続ける地域社会の一員として、その地域におけるその時代の真の豊かさや暮らしの質(QOL:Quality of Life)を問い続け、予防的ケアを実践しながら、人々と共に健康文化を創造するヘルスプロモーションの専門家です。私たちの分野では、健康とは、専門職が提供できるものではなく、人々が日々の暮らしの営みの中で醸成していく文化であるという考え方を大切にしています。
主な研究テーマは、文化としての健康観と社会文化的集団の健康増進です。地域には、様々な社会文化的集団(サブコミュニティ)が存在します。年代・境遇・疾患・障害等より、そのサブコミュニティの人々にとっての健康観は、実に多様です。どのような時にいきいきとできるか、活力や安寧を感じるか、安全・安心や元気の源や秘訣と合わせて探求し、ケアや支援の方法を開発しています。文化の多様性に謙虚であること、人々の暮らし方から学ぶことは、研究の原点であると考えています。
米国の公衆衛生領域で主流となっている(CBPR:Community Based Participatory Research)という研究スタイルを用い、地域の保健師・助産師・看護師など保健行政の関係職種や住民の方々と一緒に、「"地域への愛着"を育む健康増進プログラムの開発」、「近隣住民間の交流促進プログラムの開発」を行うと同時に、「まちの多文化共生力」「地域の子育て力」「近隣の気遣い合い力」「地域社会の回復力」「地域のケア資源」「支援力と受援力」などの概念・理論生成に取り組み、個人変容と社会変容に参画しています。
私たちは、東日本大震災10年の経験を基に、社会的包摂/ソーシャルインクルージョン/Social Inclusionを公衆衛生看護の原理と位置付け、研究活動に取り組んでいます。
公衆衛生看護学分野 教授 大森 純子